本当の英語力をつける認知科学に基づく勉強法【結論:語彙を深める】
「英語力を早く伸ばしたいけれど、それができなくてもどかしい。」
「リスニング、スピーキング、ライティング.. 結局何をやるのがいいの..?」
このような悩みを持つ方に、本当に英語力を身につけるための、認知科学に基づく勉強法をご紹介します。
この記事の結論
結論から言うと、英語力を伸ばすために大切なのは「語彙を深める」ことです。
そして、単語と単語の境界を探ることです。
この記事で書いていること
- 語彙を深めるとは?【意味の境界を知ること】
- まず最初に語彙を深めるべき理由
- 具体的な探究方法の解説
この記事を書いている私は、英語初心者から英語ディベートを初めて2年。
心理学者の今井むつみさんが書いた、英語学習の本を読んで実践してみました。今のところベストな方法だと思ったので、共有します。
今回参考にしている本
※ この記事の内容は、これらの本に書いてあったことに、私なりの解釈や経験を加ています。実践する際は原書に目を通してみるのがオススメです。
英語力を伸ばすために大切なこと
英語力を伸ばすために最初にやるべきことは、語彙を深めることです。
リスニングやスピーキングの練習に手をつけるより先に、語彙を深めてください。
とはいっても、語彙を深めるとは具体的に何をすることか?
結論からいうと、「単語の意味の境界を探る」ことです。説明していきます。
言葉について学ぶべき2つのこと
そもそも、新しい単語を学び、正しく使えるようになるには、その単語について次の2つの要素を知る必要があります。
- 意味の対応づけ
- 意味の境界
1つ目は、意味の対応づけです。これは、その単語が何を参照するのか(どんな意味を持つのか)ということです。
そして2つ目に、意味の境界。これはその単語がどの範囲までを参照するのか、ということです。そして、隣り合う単語の範囲と、どう重なり、どこに境界ができるのかを知ることです。
具体例「評価する」
例えば、「評価する」という日本語を表す英単語は、いくつかあります。
- evaluate(評価する)
- assess(評価する)
- judge(評価する)
などなど。これが思いつくのであれば、意味の対応づけができている状態です。
一方で、これらの3つの単語は、まったく同じ場面で、同じように使えるわけではありません。それぞれの単語が、どんな文脈で、何が目的語のときに使えるのか。その範囲は、違っていたり、一部重なっていたりします。
単語 | 使用できる範囲 |
evaluate | ある軸に沿って、評価する (performance, effectivenessなど)。 |
assess | よく調査した上で、様々な軸で評価する (risk, situationなど)。金銭的な評価にも用いられる。 |
judge | 勝負ごとや、法に関する場面で評価する。 |
それぞれの単語がどの範囲なら使えるのかわかる。これが意味の境界を知っている状態です。
多くの英語学習者のミス
言葉は、意味の「対応づけ」と「境界」の2つを知ることで、ようやく正しく使えます。
そして、「英語を勉強したのに使えない..」という状態に陥る1番の原因は、意味の対応づけのみを学習し、意味の境界を知らないことにあります。
言葉を使う上で、意味の境界はすごく重要です。なぜなら、言葉の意味は本来、点ではなく「面」だからです。広がりがあります。空間を塗り分けます。そして、境界を持ちます。私たちは言葉を「面」として捉え、その境界を認識しているから、生きた知識として言語を正しく使うことができます。
言葉の境界がスキーマを作る
外国語を学ぶときに意味の境界が大事な理由は、もうひとつあります。それが、英語のスキーマを身に付けるためです。
言葉の意味は「面」であり、世界を塗り分けています。
というように。このような世界の塗り分け方や認識のフレームのことを、スキーマと呼びます。心理学の分野で使われる言葉です。私たちのスキーマ(世界の見方)は言葉によって作られています。
言語が違うと、世界の塗り分け方が違う
そして、言語が違えば当然、それが作るスキーマも違います。下の図がその例です。
日本語では「持つ」「担ぐ」「抱える」という動作を異なる動詞で塗り分けます。しかし、英語ではそれらを「hold」という一色で塗ります。
一方で「歩く」という動詞を、英語では複数の動詞で塗り分けます。しかし、日本ではこれを塗り分けません。(副詞によって塗り分けます。)
衣服を身につける動詞は、日本語と英語で別の場所に境界ができます。
このように、日本語を話す人と英語を話す人は、違うやり方(スキーマ)で世界を塗り分けているのです。そして、新しい言語を学ぶことは、新しく世界を塗り直すことでもあります。
英語力を伸ばすために語彙を深める理由
以上をふまえた上で、私たちは英語を学習するときにまず最初に語彙を深め、意味の境界を知る必要があります。これには、次の2つの理由があります。
- 「点」として言葉を学ぶと、死んだ知識になる
- 言語ごとのスキーマのズレを認識する
理由① 「点」として学んだ単語は死んだ知識
私たちが母国語を学ぶとき、自然と言葉の意味を「面」として学んでいます。だから、日常生活で使える「生きた知識」となります。
しかし、学校で英語を学ぶと途端に、言葉を「点」として学ぶようになります。(英語と日本語の意味を1:1で覚えるように。)すると、覚えても使えない「死んだ知識」となります。
言葉の意味を「点」として学ぶと、以下のようなことが起こります。
- 点だから、表現したい意味が言葉をすり抜ける
- 点を線で結んだだけだから定着しにくい
- 境界を知らないから、使用範囲を間違える
一方で、言葉を「面」として学ぶと、こんな感じになります。
- 表現したい意味を、簡単に拾うことができる
- 面で接するから、知識が定着しやすい
- 使用範囲を適切に認識できる
具体例「投げる」
例えば、「投げる」という日本語について。投げるには以下のような意味があります。
【投げる】 手から勢いよく離してとばす
「投げる」という言葉の意味も「面」です。つまり「投げる」は、野球ボールを片手でとばすときにも、バスケットボールを両手でとばすときにも、使うことができます。ボールだけに限らず、丸くないもの(ブーメラン)や人をとばすときにも、投げるを使うことができます。
そして、「面」には境界があります。ボールを足でとばす時には、「投げる」は使えません。境界を知っていると、言葉を誤用することがありません。
しかし、「投げる」の意味を点として学んでしまった場合。
丸いもの以外(ブーメランや人)をとばす時にも、「投げる」は使えるのでしょうか。足でとばす場合にも、「投げる」は使えるのでしょうか。これらを判断することができません。「点」としての言葉の知識は、固くて融通が効かないのです。せっかく覚えても、実際は使えない「死んだ知識」となります。
理由② スキーマのズレを認識する
言葉は「面」として世界を塗り分けます。そして、言語が違えばもちろん、塗り分け方が違います。スキーマが違います。
外国語を学ぶときに必ずやるべきことは、スキーマのズレを認識し、それを修正していくことです。ズレに気がつかなければ、次のような問題が発生します。
- 母国語のスキーマにない情報が、いつまでも記憶されない。
- 母国語のスキーマに合わせて、誤った形に変換して覚えてしまう。
具体例「歩く」
例えば、「歩く」を表す英語。「歩く」と聞いて、すぐに思いつく英単語は「walk」だと思います。ですが、「歩く」を表現する英語は、その歩き方によって他にもたくさんあります。
- amble(ブラブラ歩く)
- stagger(よろよろ歩く)
- swagger(胸を張って歩く)
しかし、これらの英単語は日本人にとってすごく定着しにくいです。なぜなら、日本語には「歩く」という動詞を塗り分ける習慣(スキーマ)がないからです。(※代わりに、副詞を使うことでこれを塗り分けています。)
そのため、「歩く=walk」を覚えてしまうと、その他の「歩く」は覚える必要がなく、切り捨ててしまうのです。日本語のスキーマに従うと、そこにない情報は、脳に記憶されません。
大事なのはスキーマの修正
スキーマには大きなメリットがあります。新しいことを学ぶとき、すでに持っているスキーマから推論します。そして、必要がないと判断した知識を切り捨てます。そうすることで、高速で効率的に学習できます。私たちはこれらを無意識に行っています。
しかし、新しい言語を学ぶということは、新しいスキーマ自体を学ぶことです。
大事なのは、スキーマのズレに気がついて修正することです。本当に言語が使えるようになるには、その言葉を使う人たちの世界の塗り分けを学ぶ必要があります。
そして、世界の塗り分け方を決めるのは、ひとつひとつの言葉です。だから、語彙を深めることが最優先なのです。
英語力を伸ばす具体的な探究方法
ここからは、語彙を深めるための具体的な学習方法について、解説します。
この学習法で一番大事なことは、同じ意味に属する単語(隣り合う単語)を一度に学習することです。それにより、単語の境界がどこにあるのかを把握し、日本語とのズレを修正していきます。
使用するツール
この学習法には以下の3つのツールを使います。すべてweb上で無料で使えます。
- Cambridge Dictionary(英英辞典)
- SKELL(コーパス)
- COCA(Corpus of Contemporary American English)(コーパス)
コーパスというのは、雑誌や本などの言語情報を集めたデータベースです。
※3つ目のCOCAのみ、簡単な登録作業があります。しかし、無料で使えます。
勉強の手順
勉強の手順は、主に以下の4ステップです。
- 隣り合う単語のピックアップ
- 英英辞典で意味の比較
- 共起される単語のリストアップ
- スキーマ(単語の境界)の推測
順番に解説していきます。
step1 隣り合う単語のピックアップ
単語の意味の境界を探るため、必ず隣り合う単語(同じ意味に属する単語)をまとめて深めていきます。
ここでは例として、「重要な」という意味を表す英単語について深めていきます。
「重要な」を意味する複数の英単語をピックアップします。今回は以下の4語を選びました。(多すぎると大変なので、1度に2〜5語程がオススメです。)
- important
- significant
- essential
- crucial
同じ意味に属する単語を調べるときは、自分思いつく単語を選んでもいいし、SKELLの「Similar words」という機能を参考にするのもアリです。以下に説明しています。
SKELLで「Similar words」の使い方
SKELLで単語を検索し、「Similar words」というタブをクリックすると、類似した単語が視覚的に表示されます。(英語の構造として似たワードが表示されるので、意味としては全く違う単語も出てきます。参考までに。)
step2 英英辞典で意味の比較
それぞれの単語について、深めていきます。まずは、英英辞典(Cambridge Dictionary)で意味を調べます。これだけで、他のワードとの意味の違いや、使用場面が特定できることもあります。
今回の4つの単語について調べると、以下のようになります。
ここからでも、意味の境界についていくつかわかることがあります。
- significantやcrucialの意味には「important」という語が使われているので、意味が重なっている部分がある。
- 特にcrucialは、「extremely important」とあることから、より重要の程度が大きいのかもしれない。
ちなみに、英語のスキーマ上で探求を進めるために、英和辞典ではなく英英辞典を使いましょう。
step3 共起される単語のリストアップ
その動詞は何が目的語のときに使われるか、その形容詞は何の名詞を形容するときに使われるか。
このような、共起される単語の知識は、意味の境界を知る上で最も重要です。この探究においてもメインの事柄です。それをリストアップしていきます。
COCAで共起される英単語の調べ方
SKELLで共起される英単語の調べ方
ÇOCAは共起される単語が使われる頻度の順で出てきます。なので、特に頻繁に使用される単語を知るのに便利です。
一方で、SKELLは共起される名詞が主語として使われるのか、目的語として使われるのか、分類がわかるようになっています。(COCAでは共起される名詞として、一緒に表示されます。)
片方のツールでも探求は可能ですが、私は両方参考にしています。
また、深めたい単語の品詞によって、リストアップする単語は以下のようになります。
深めたい単語 | リストアップする共起する単語 |
動詞 | 名詞(目的語)、副詞(修飾語) |
形容詞 | 名詞(被修飾語)、副詞(修飾語) |
名詞 | 動詞、形容詞(修飾語) |
副詞 | 動詞(被修飾語)、形容詞(被修飾語) |
例えば、今回選んでいるのは形容詞なので、「重要な」に修飾される名詞と、「重要な」を修飾する副詞をリストアップするとOKです。すると、以下のような感じになります。
step4 スキーマの推測
最終ステップです。英英辞典の意味(Step2)や共起される単語(Step3)の結果を比較しながら、意味の境界を探っていきます。
今回の「重要な」を表す4つの単語の場合。以下のような気づきが得られます。
例えば、importantとsignificantの共起される副詞を比較します。
importantについては、「very」「extremely (特に)」など、口語的で主観的に程度を表す副詞が使用されています。そのため、話し言葉として自分の意見を述べるときに使われるのではないか、と推測できます。
一方で、significantと共に使われる副詞は「statistically (統計的に)」「clinically (臨床的に)」「historically (歴史的に)」などです。importantとは反対に、その重要性が客観的に知られているような場合に使用されるのではないかと、推測ができます。
他にも、essentialの共起される名詞では、「part」「element (要素)」「component (成分)」などが特徴的です。ここから、何かを構成する一部として重要なときに使われるのではないかと考えられます。英英辞典での意味が「necessary or needed」だったのも、この推測とリンクしています。
また、crucialの共起される名詞は、importantのそれとほとんど被っていることがわかります。そのため、使用される意味としては、importantとほぼ同じであると考えられます。しかし、副詞を見ると、「vitally (すごく)」「absolutely (絶対に)」「stunningly (極めて)」という単語が並びます。これは、importantの「very」「extremely」より大きな程度を表すものです。そのため、より強い重要性を表す単語だということも推測できます。これも、英英辞典のcrucialの意味に「extremely important」とあったこととリンクしています。
このようにして、共起される単語から、それぞれの意味の境界を推測することができます。そしてこれを繰り返すことで、言葉の意味が広がりを持つ面となり、生きた知識として英語を習得することが可能です。
疑問「ググるのはありか?」
今回ご紹介した境界を探るプロセスははっきり言って面倒くさいです。そして似た英単語の違いについての情報は、検索すれば簡単にわかります。「英語 重要な 使い分け」と検索するとこんな感じに。
しかし、この探求は自分で進めなければ、意味がありません。以下の文章は本からの引用です。
自分でスキーマを探索し、見つけなければならない最大の理由は、人は正しいスキーマを誰かに教えられただけでは、結局前からあるスキーマに負けてしまい、新しい、正しいスキーマを定着させることができないからである。
ー 『英語独習法』(今井むつみ著)
私たちは、すべての物事をスキーマを通して知覚します。しかし、スキーマへのアクセスはどこまでも無意識に行われます。自分で探したスキーマでなければ、英語力は身につきません。ググるとしても、自分で探求した後の答え合わせにしましょう。
この勉強法をやってみた感想
私はこの探求方法を、1月半程続けています。ちなみに、英語の競技ディベートのコミュニティに属しており、週に1, 2回英語を話す機会があります。
そして、この方法を試して感じたことがあります。自分が探求した言葉は、心強いということです。
英語を話す時、私には少なからず不安がありました。「この単語はこの文脈に合っているのだろうか。使っていいのだろうか。」という不安です。しかし、自分で境界を探求した言葉は、「妥当な範囲内には入っているだろう」という安心感があります。「点」としての言葉にはない安心感です。
そして、その安心感から、前よりも自然にその英語が出てくるようになったと感じました。効果がありそうなので、しばらく続けてみようと思います。
まとめ
英語力を伸ばすために大事なことは、語彙を深めることです。それはつまり、単語の境界を探求し、世界を塗り替えていくことです。その過程は、とてつもなく長い時間がかかります。しかし、確実な方法です。私も少しずつ気長に探求していきます。
最後に本文から。
プロフェッショナルなレベルに堪えうる英語の表現力を身につけるためには、一にも二にも語彙である。..(中略)必要なときにすぐに記憶から取り出せて、どのような構文で使えるかが判断でき、その文脈で使うことが自然で、他にそれよりもよい単語がないかどうかを判断できる、そういう「生きた」知識を伴った単語が集まった語彙力をもつことが大事なのである。
ー 『英語独習法』(今井むつみ著)
この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。
参考にした本
心理学者の今井むつみさんの本です。すごく面白くて3冊ほど続けて読みました。この記事の内容はほんの一部にすぎないので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
『英語独習法』
英語の学習法に的を絞って知りたい方は、こちらの本だけでもオススメです。語彙を深めた後、「リスニングやスピーキングはどうすればいいか?」という内容も書かれています。
『学びとは何か』
モノゴトを学び熟達することについて書かれています。3冊のなかで1番読みやすいです。「英語独習法」の前知識として、先に読むのもオススメです。
『言葉を覚えるしくみ』
英語に限らず、言語を学ぶプロセスについて詳細に書かれています。今当たり前のように使っている言葉を、自分はどんなふうに身につけたのか。新しい世界を知ることができて、面白かったです。少し長めです。