【チェスと武術のチャンピオンに学ぶ】ディベートの上達に大切なこと【本質論】

読書

「これから、もっとディベートを上達していきたい。」
「ディベート道をどんどん極めていきたい。」

このように考えている同志の方へ。この記事では、私がある本の中で見つけた、上達のためのアイデアを共有します。

 この記事で書いていること

  1. 【上達に大切なこと①】型を忘れるための型
  2. 【上達に大切なこと②】小さな円を描く練習

抽象的な話ですが、本質的です。楽しんでいただければ幸いです。

上達の本質が書かれた本『習得への情熱』

この本の著者であるジョシュ・ウェイツキン(1976 ~ )は、世界屈指のチェスプレーヤーです。少年時代から数々のトーナメントで活躍し、多くのタイトルを獲得します。

その後、22歳から太極拳の習得をはじめます。こちらも数年のうちに世界レベルの実力を身に付け、6年後の2004年、世界選手権を制覇します。

チェスと武術というまったくの別分野で卓越できたのは、そこに「共通する上達の方法」があるからだといいます。この本は、その方法論が体系的に書かれた、面白い内容になっています。

ディベートに応用

そして、この本に書かれた方法論を「競技ディベート」と結びつけるとどうなるか。それを、この記事で解説します。

なぜなら、チェスと武術に共通する方法が、ディベートに応用できないはずがないからです。何か本質的な学びが得られるに、違いありません。

具体的には、特に重要なこの2つの方法論を、順番に解説していきます。

  1. 型を忘れるための型
  2. 小さな円を描く練習
チェスと武術とディベート

【上達の方法論①】型を忘れるための型

人が知識やスキルを身に付けていくプロセスを、この本では「型を忘れるための型」という言葉で表しています。

私たちは、論理を吸収し、根付かせ、そして忘れます

この「忘れる」というのは、学んだものが頭の外に出て行ってしまうことではありません。意識的にしかできなかったことが、無意識に、そして直感的にできるようになることを意味します。

知識を無意識の領域に移す

無意識化できると強い理由

忘れる、すなわち無意識の思考を増やしていくことは、上達に不可欠です。

なぜなら、人が意識的にできる思考には限りがあるからです。

例えば、ディベートにおいて「英語力」は無意識化することの1つです。リスニングが苦手なディベーターは、「相手の英語を翻訳すること」に意識的な思考を使わなければいけません。思考の容量はすでにいっぱいです。

一方で、熟達したディベーターは相手の英語を聞いて、無意識にその意味を理解できます。そして、意識的な思考をもっと別のこと(有効な反論を考えることや、自分たちの話と比較すること)に使うことができます。

意識的な思考とは反対に、無意識の思考のエリアは無限大に広いです。そして高速な処理ができます。

意識と無意識の領域

無意識化した領域が広くなると、相手よりも多くのものを見たり、考えたりすることができるようになります。複雑な関係性を、広い視野で、直感的に理解できるのです。

どうやって無意識化する?

知識やスキルを無意識化するには、以下の3つのプロセスが必要になります。

  1. 個々の情報までの回路を開拓する
  2. 複数の情報をつないで、1つのチャンク(塊)にする。
  3. 修理・補足を繰り返しながら拡大する

ディベートに置き換えながら、説明していきます。

①それぞれの情報までの回路を開拓する

覚えたばかりの情報を使うときには、何をするにも膨大なエネルギーが必要です。なぜなら、回路がつながっておらず、意識的な思考が必要だからです。

ディベートを始めたばかりの頃は、アーギュメントを作る、英文にする、構成を考える、すべての動作がしんどいと思います。ゆっくりでもいいので、1つ1つこなしていきます。

②複数の情報がチャンクになる

意識的な思考を繰り返すうち、情報へのアクセスが少しずつ簡単になっていきます。そして、複数の情報が1つにまとめられる(チャンキングされる)中で、無意識化がすすんでいきます。

チャンキングは、言い換えると「個々の情報が、相対的な情報に上書きされること」を意味します。

例えば、それまでは「1つのアーギュメント単体」として認識していた情報が、「このディベートの中でこんな役割を持つのがこのアーギュメント」「相手のこの話と対立するのがこのアーギュメント」という情報に置きかわります。そのような相対的な認識は、1度にたくさんの情報を包括するため、無意識化でも効率よく処理できるのです。

③修理・補足を繰り返しながら拡大する

無意識化した情報も、絶えず変化します。ときに壊され、修正されながら、無意識の領域は拡大していきます。

この頃には、最初に学ぶ1つ1つの原則は薄れ、より広い範囲での相対的な情報に上書きされています。
例えば、ディベート初心者の頃は「AREAでスピーチを作らないといけない」「インパクトを出さないといけない」といった原則を、教義のように覚えます。しかし、ディベートに熟練するほど、そのような原則が全体の中に埋没していることがわかります。

型を忘れるためのコツ

ここでのコツは、多くのものを同時に無意識化しようとしないことです。
ディベーターとして熟練するために、習得することは多くあります。

  • 英語を聞いて、話すこと
  • 各論題で必要な知識
  • わかりやすいスピーチの構成の仕方
  • メカニズムやインパクトの出し方、はかり方

しかし、英語を必死に翻訳しながら、同時に優れたアイデアを出すことはできません。1つ1つ学んでいくことが大事です。そして、最後には忘れるのです。

【上達の方法論②】小さな円を描く練習

小さな円を描く
無意識化した技術を、さらに深くとりこむためのステップが、「小さな円を描く練習」です。

つまり、同じだけのパワーを保ちながら、テクニックの外形をより小さく、凝縮させていくプロセスです。そうすることで、外方向への拡散が減り、効力が増します。

なぜ小さな円を描けると強いのか?

どの競技でも、小さな円を描けるプレーヤーは強いです。なぜなら、より小さな動き(少ない時間)で同じだけのパワーを使うことができるからです。

例えば、熟練した武術家は、ほんの小さなパンチで相手を遠くまでふっ飛ばします。そのため、相手はそれをよけることができません。

同じように、熟練したディベーターは、ほんの少しの言葉に大きな説得力を持たせます。これは、スピーチ時間の限られているディベートで、もちろん有利に働きます。

小さな円を描くプロセス(パンチの場合)

小さな円を描くプロセスは、以下の3つです。

  1. 課題となるテクニックのエッセンスに触れる。
    (十分にパワーのあるパンチを放てるようになる。)
  2. エッセンスを保ちながら、徐々に外形を小さくしていく。
    (手を引く距離を少しずつ短くする。腰の動きを使わずにパンチできるようにする。)
  3. 少ない動きで、効力を発揮できる。
    (誰の目にもわからないような動きで、相手を遠くまで飛ばせる。)

ここで大切なことは、1歩1歩、ほんの少しずつ外形を縮めていくことです。なぜなら、これはものすごく時間のかかる作業だからです。焦ってしまい、パワーを損なうことのないように、少しずつ小さく、洗練させていきます。

少しずつ外径を縮める

小さな円を描くプロセス(ディベートの場合)

ディベーターが小さな円を描くプロセスを行うとき、残すべきパワーは説得力です。

同じだけのインパクトやメカニズムを保ったまま、これを伝えるための文章・語数を減らしていきます。それは、スピーチの全体の構成から英単語の1語1語におよぶ、長い道のりです。

  • 最も簡潔で、伝わりやすい構成は何か?
  • 不要な段落や、無駄に繰り返している言葉はないか?
  • よりパワーのあるexampleはないか?
  • より的確にニュアンスが伝わる英単語はどちらか?

このような問いを繰り返しながら、自分のスピーチを小さくすることで、上達への道のりを進むことができます。

まとめ

この記事では、『習得への情熱 チェスから武術へ』より、チェスと武術に通じる2つの上達論を、ディベートに応用させて解説しました。

  • 型を忘れるための型
  • 小さな円を描く練習

この記事が皆さんのお役にたれてば幸いです。

この記事でご紹介した本

今回ご紹介した2つの他にも、上達に必要な思考法がたくさん載っています。ご興味のある方はぜひ読んでみてください。