【ミルの自由論を解説】賢く生きるための自由論のメッセージ【古典を読む】
「J.S.ミルの『自由論』にある私たちへのメッセージについて知りたい。」
「これから『自由論』を読むか迷っているから、内容について知りたい。」
このような悩みをもつ方に、ミルの「自由論」を読んで受けとった3つのメッセージについてご紹介します。
この記事で書いていること
- J.S.ミルの「自由論」とは?
- 自由論に書かれている3つのメッセージ
ひとりの読者としての解釈ですので、参考までに!
J.S.ミルの自由論とは?
自由論は、「社会における自由のあり方」について書かれた本です。
著者は、J.S. ミル(ジョン・スチュアート・ミル)というイギリスの経済学者です。個人の自由が社会の中でどのくらい認められるべきかという話は、今も昔も答えのない永遠のテーマのひとつです。
ミルの唱える「危害原則」
そしてミルはこのテーマにおいて、“危害原則”という有名な次の考えを提唱しています。
個人の自由を制限していいのは、それが他者に危害を与えるときのみである。
つまり、「他の人に迷惑をかけないかぎり、(例外はありますが基本的には)個人は自由に生きていい」という考えです。
本書は、この原則を中心にしてミルの考えが展開されています。
私たち個人はどうあるべきか
ミルがこの本でおもに語っているのは「社会はどうあるべきか」というメッセージです。
しかし、私たちはそれに加えて「個人がどうあるべきか」というメッセージも読みとることができます。なぜなら、社会は個人の集まりでできているからです。
ということで本記事では3つのポイントに沿って、自由論が伝える「社会へのメッセージ」と「個人へのメッセージ」をそれぞれご紹介していきます!
自由論の3つのメッセージ
- どんなときも反対意見を受け入れよ
- 自由に生きる力は使わなけば衰える
- 他人と違う生き方を試し、尊重せよ
この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。
ミルの自由論①「反対意見を受け入れよ」
まずは1つ目。いわゆる「表現の自由」についての内容です。
意見表明を沈黙させることには独特の弊害がある。沈黙させることで人類全体が失ってしまうものがある、ということである。
ミルはいろいろな自由のうち、まず最初に意見や討論の自由を取りあげ、その大切さを強調しています。
なぜなら、事実や情報を知って議論することは、人間のすべての活動のはじめの一歩だからです。そして、すべての自由の前提だからです。
このポイントの「社会」へのメッセージ
ここでの社会に対するミルのメッセージは、こちらになります。
「他人に危害がない限り、意見の自由を最大限に守り、多様な意見を存在させることが、人間の幸福には不可欠である」
意見の多様性が大事な理由は、簡単にまとめると次の2つの理由からです。
①どんなに広く受け入れられている意見も、間違っていたり、部分的な間違いを含んでいたりするから。
たとえば、今では知の巨人として尊敬されるソクラテスも、当時は世間の判断によって死に追い込まれました。人間はいつでもまちがえる存在であり、少数派や反対派の意見を押さえ込めば人類は真理を失ってしまいます。
②反対意見との議論がなければ、その根拠を偏見の形で理解してしまったり、意見の持つパワーを失ったりするから。
また、仮にすでに正しい意見をみんなが知っていたとしても、反対意見を沈黙させることは損失だとミルはいいます。なぜなら、ただ意見を受け入れるだけでは、それがなぜ正しいのか、他の意見よりもいいのか、を考える機会をなくし、モノゴトを正しく考えられないからです。また、それが宗教などの教義であれば、人を感化するパワーを失います。
教え説く側も学ぶ側も、戦いの場に敵がいなくなると、それぞれの持ち場で眠り込んでしまうのである。
そのため、意見や討論の自由は最大限守られるべきというのがミルの主張です。
このポイントの「個人」へのメッセージ
そして、この部分について私たち個人が受けとれるメッセージはこちらだと思います。
「どんなときでも反対意見に耳を傾けよ」
賢い人たちはみんなその習慣を持っている、とミルは言います。なぜなら、反対意見を聞くことで誤りが正され、人に説明することで理解が進むからです。
本当に信頼に値する判断をする人の場合、どうしてそうなっているのだろうか。その人の知性が、自分の意見や行為に対する批判に開かれているからである。自説への反論となりうるすべての議論を傾聴すること、批判が当たっている部分からは多くの教訓を得るとともに、誤っている部分については、どこが誤っているかを、自分に向かって、またときには他の人々に向けても丹念に説明することが、その人の習慣になっているからである。(中略)どんな賢者も、これ以外の方法で知性を獲得したことはない。
耳が痛いことを言われると、無視したくなることもあります。しかしミル曰く、人として賢くなるにはそれらに耳を傾ける必要があるのです。
ミルの自由論②「自由の能力を行使せよ」
つづいて2つ目。表現の次は、「行動」についての自由です。
このポイントの「社会」へのメッセージ
「表現の自由と同じように、行動や生き方においても自由が認められる社会であるべき」
というのがここでのミルの主張です。
行動の自由が大事な理由は直感的にもわかると思いますが、あえていうなら「人はそれぞれ違い、必要とするものや環境も当然違うから」です。
それぞれに異なっている人は、自分の精神的発展のためにそれぞれ異なった条件を必要としている。だから、全員が同一の精神的な空気や環境の中で元気に生きていく、というのは無理な話である。多様な植物の全てが同じ自然の空気や環境の中では元気に生きていけないのと同じことである。
自由に生きづらくなっていく社会
この点について言えば、時代が進歩していろいろな技術や選択肢が増えていけば、みんな自由も拡大するはずだ!と思う人もいるかもしれません。
しかし実際はそうともかぎらず、自由に生きることがむずかしくなっている部分もあるとミルは主張しています。なぜなら、教育・交通・商工業の発展により、あらゆる同一化が進行しているからです。それは平等というメリットがある一方、みんなが同じ環境で生きることを前提としています。
そして、現代でさらに明らかになっている問題にもミルは触れています。それは、メディアの発達により、互いの目を意識するようになったことです。
今の時代は、社会の最上層から最下層に至るまで、すべての人々が、敵愾心に満ちた恐ろしい監視の目にさらされているかのようにして暮らしている。他人に関わる物事ばかりでなく、自分だけにしかわからない物事に関しても..(中略)人々が自問しているのは、むしろこうである。何が私の地位にはふさわしいのだろうか。私と同じ地位や収入のある人々は、普通は何をしているのだろうか。あるいは、私よりも上の地位や境遇にある人々は、普通は何をしているのだろうか。
そのような社会の変化もあり、ミルはこの本を書いたのかもしれません。
このポイントの「個人」へのメッセージ
そして、私たち個人が自由を行使するために、ミルは次のようなメッセージを残しています。
「自由に生きるための能力は、使わなければ衰えてしまう。だから、いますぐ使い始めなければいけない。」
自由は幸福に必要なものですが、自由を行使するにはいろいろな能力が必要になります。
- まわりの状況を観察する力
- 将来を予見し、推測する力
- 意思決定の材料を集める力
- 必要な情報を、識別する力
- 実行するための、意志の力
そして、これらの能力は筋肉と同じで、使わない限り習得できないものです。
知覚、判断、物事を見分ける感覚、知的な活動、そして道徳的な優先順位付けまでも含めて、人間のこれからの機能が訓練されるのは、選択を行う場合に限られる。何事であれ慣習だからという理由で行う人は、何も選択していない。最善なものを見分け望むという点では、なんの練習にもなっていない。知力や道徳的な能力は、筋力と同様に、使うことによってのみ向上する。
自由に生きることは実際にはタフなことです。少しずつ、自由に生きる強さを鍛えることが必要かもしれません。
ミルの自由論③ 「違う生き方を試し、認めよ」
最後に。近年よく耳にする「多様性」について、ミルの考えがわかる内容です。
このポイントの「社会」へのメッセージ
「生き方の個性や多様性は、社会の幸福の一要素である。」
みんなが自由を追及した結果、社会はより多様で個性的な生き方が存在するようになります。そして、そのような社会は好ましいとミルは言います。なぜなら、そのような社会は個人が自分の生き方を追及するための試行錯誤がさらに容易になるからです。
人類が不完全なあいだは、異なった意見が存在することが有益である。それと同じように、生き方についても異なった試みが存在し、他人に危害がおよばない限りで性格の多様性に自由な余地が与えられ、自分で試みることがふさわしいと思うときには、異なった生き方の価値を実際に確かめてみることも有益である。
それに加えてそのような社会では、大きく世界を変えるような人、いわゆる「天才」も活躍しやすい社会になるとミルは言います。
天才的な人々はほんの少数であるし、いつでもそうだろう。しかし、彼らを存在させるためには、彼らが育つ土壌を保つ必要がある。天才が自由に呼吸できるのは、自由な空気の中だけである。
多様な社会は、人類全体の幸福や進歩にとってメリットだと、ミルは主張します。
このポイントの「個人」へのメッセージ
そして、私たち個人に求められることが、こちらです。
「人と違った生き方をすること、もしくはそれらを尊重すること。」
なぜなら、自由が制限されやすい今の社会において、人と違う生き方をすることは社会への貢献だからです。
何にもまして特にこういう状況(自由に生きづらくなっている社会)においてこそ、例外的な個人が大衆とは異なった行動をとることは、妨げるのではなく奨励すべきなのである。昔は、このような例外的な個人のすることは、大衆のすることと異なっているばかりではなく、いっそうすぐれてもいる、ということでなければ、なんの利点もなかった。今の時代は、順応していないという例を示すだけでも、つまり、慣習に屈服するのを拒むだけでも、一つの貢献となる。
また、あなたの周りにもし個性的に生きようとしている人がいたら、頭ごなしに批判しないでそれを尊重することが大事かもしれません。
まとめ
この記事では、ミルの自由論をからのメッセージを3つのポイントで紹介しました。
- どんなときも反対意見を受け入れよ
- 自由に生きる力は使わなけば衰える
- 他人と違う生き方を試し、尊重せよ
興味のある方はぜひ手にとって見てください!この記事が、みなさんのお役に立てれば幸いです。