【THW set female quota. 】古典モーションを図解する【クオータ制】

ディベート ディベート知識

クオータ制についての論題は、よくディベートされる議題のひとつです。この記事ではその中でも頻出の、

”THW set female quota on the board of exectives in corporation.(政府は会社の執行役員に女性枠を導入するべきだ。)”

を例に、論題を解説していきます。

 この記事で書いていること

  1. クオータ(quota)制の概要
  2. THW set female quotaの肯定側
  3. THW set female quotaの否定側

クオータ(quota)制の概要

クオータ制の概要【THW set female quota. 】

まず、クオータ(quota)制について簡単に解説します。
クオータ(quota)制とは、人種、性別、宗教などを基準に、人数の割り当てを決める制度のことです。一般的に、社会的な不利益を受けている人たちに、人数を割り当てることを目的に導入されます。設置される場所は、会社のCEO、議席、大学入試の定員など様々です。

クオータ制に関する論題は、他にも以下のようなものがあります。

  • “THW force companies to reflect the racial diversity of national population on employee composition.”
    (政府は従業員の構成に国内の人種的多様性を反映させることを企業に強制する。)【人種 × 会社】
  • “THW introduce female quotas in political institutions.”
    (政府は政治機関に女性枠を導入する。)【性別 × 政治機関】
  • “THBT elite universities should implement racial quotas to ensure a greater admission of underrepresented minority students.”
    (エリート大学は、マイノリティ学生の入学を確実にするために、人種的クオータを導入すべき。)【人種 × 大学】

クオータ制とフェミニズム

性別に関するクオータ制の論題は、たいていの場合、フェミニズム運動(feminism movement)と関連しています。ここで、フェミニズムについても少し説明します。

フェミニズム運動とは、女性の地位向上、男女同権を目指す運動です。政治参加、労働、教育、宗教など様々な分野で、この運動が起こっています。

今回解説する、
THW set female quota on the board of exectives in corporation.”も労働におけるフェミニズム運動のひとつと捉えることができます。その場合、以下のようなことが肯定側と否定側の両チームが共有するゴールになります。

  • 女性にとって、より働きやすい労働環境を実現すること。
  • 女性が自由にキャリアを選択し、自己実現ができること。

それでは、肯定側のアーギュメントから順に解説していきます。

THW set female quota.の肯定側

THW set female quota.の肯定側

肯定側では、以下のように話を組み立てていくといいと思います。

  1. 女性にとってどのような現状の問題が企業内にあるのかを説明。
  2. quotaの導入後、その問題がどのように解決されるのかを説明。

順番に解説していきます。

肯定側のモデル

その前に、モデルについてです。ディベートの文脈をはっきりさせるため、肯定側の最初のスピーカーは役員全体の何%をfemale quotaにするか指定しましょう。

よく使われるモデルは、全体の30% ~ 50%程度だと思います。(残りの席は男女で競われるため、結果的に全体の半分前後が女性役員になります。)

続いて、女性にとっての現状の問題について説明します。現状で女性が抱える問題は、以下の2つに分けると説明しやすいと思います。

  1. 一般的な女性にとっての、働きにくい労働環境
  2. キャリアを築きたい女性にとっての、不自由さ

順番に解説します。

問題① 女性にとって働きにくい環境

「現状、多くの会社は働く女性にとってフレンドリーではない労働環境であり、改善の必要がある。」

ということを訴えます。例えば、以下のような具体例が出されることが多いです。

・産休、育休の制度が整っていない(あったとしても、気軽にとれる雰囲気ではない)
・女性の方がセクハラ・パワハラのターゲットになりやすい
・全体的に女性が意見を言い出しにくい雰囲気がある..

また、これらの問題の原因は、会社の the board of exectivesが男性により運営されているためであることも説明します。会社の制度や環境を変える力を持つのは幹部の人たちです。その人たちが男性ばかりだと、女性のための環境を作ろうというインセンティブを持ちにくく、持っていたとしても「女性にとっていい環境とは何か」がわかりにくいからです。

問題② キャリアを築きたい女性にとっての不自由さ

「キャリアを築きたい、昇進したい女性にとって、それは男性よりも難しい。」

ということを説明します。立場の弱い人たちのキャリアに関する制限を表す言葉として、ガラスの天井・壁・ドアという言葉があります。

  • ガラスの天井(glass ceiling):性別を理由に、昇進の階段がある場所でとまってしまうこと。
  • ガラスの壁(glass wall):性別を理由に、働くことができる部署などが制限されること。
  • ガラスのドア(glass door):性別を理由に、採用段階で能力を低く見積もられること。

ガラスというのは、この制限が非公認、もしくは無意識のうちに存在することを比喩しています。これらの言葉も、説明するのに役に立つと思います。

また、このような制限の原因となっているものとして、女性への偏見が挙げられることが多いです。

■ 偏見の例
┗ 仕事に必要な能力(論理的思考力や、体力など)が一般的に男性より低い。
┗ 感情的になりやすい。
┗ 結婚や出産を機に、どうせ仕事をやめてしまう。

このような根拠のない偏見が、女性のキャリアを制限する原因のひとつになっています。また、前例がないために女性自身にとっても挑戦するハードルが高いという理由も挙げられます。

次に、このような現状で女性の抱える問題が、female quotaを導入することでどう解決されるのか、を説明していきます。

改善① 女性にフレンドリーな職場づくり

女性のthe board of exectivesは、同じ女性社員の抱える問題を理解しています。なぜなら、彼女たちも当事者だからです。そのため、それらを解決するインセンティブも大きく、また、より的確な解決法をとることができます。

解決後の具体例として、以下のようなものが挙げられることが多いです。

・産休・育休などのサポートの充実
・子供の送迎に合わせた時間で働ける
・会社に託児所を作る..

改善② キャリア選択の自由

また、この政策をとることで、女性が自分のキャリアを追うことができます。その理由も、例えば以下のような順番で説明するとわかりやすいと思います。

  1. 単純に、the board of exectivesにつける女性の数が増える。
  2. 優秀な女性がthe board of exectivesについて成果を出すことで、根拠のない偏見が消える。
  3. the board of exectivesの女性がロールモデル(お手本)となり、他の女性も昇進に挑戦しやすくなる。

(※the board of exectivesについた女性が実際に活躍できるのか?というのは、ひとつの重要な対立になりやすいです。相手を超える分析が必要になります..)

このように、現状の問題とその原因を描いた後に、female quotaを導入することで、これらが解決することまで説明できるといいと思います。

THW set female quota.の否定側

THW set female quota.の否定側

続いて、否定側のアーギュメントです。以下のように話を組み立てていくといいと思います。

  1. 肯定側の話した現状の描き直し
  2. クオータ制により、むしろ女性にとって悪くなることを説明。

順番に説明していきます。

1. 現状の描き直し

まず行うのは、肯定側の描いた「問題のある現状」を描きなおすことです。

「現状、フェミニズムの浸透により、女性に優しい労働環境づくりやキャリア選択の自由化はだんだんと進んでいます。」

ということを説明した上で、企業のインセンティブにも注目した分析を加え、肯定側の問題を否定すると強いと思います。例えば、こんな感じです。

現状でも、優秀な女性はすでに昇進している。なぜなら、企業の第一のインセンティブは利益を追求することであり(profit seeking)、社員にいいパフォーマンスを出すことを期待しているからである。そのため、優秀な社員であれば性別に関係なく会社に必要であり、女性だからという理由で昇給や昇進を制限することはない。

2. female quotaを導入することの問題

「female quotaを導入することで、むしろ女性の状況が悪くなる。フェミニズムの目的に対して逆効果である。」

ということを次に説明していきます。
クオータ制で起こりうる問題としてよく挙げられるのは、以下の2つです。

  1. 「逆差別」として反感を受け、女性への偏見を強める。
  2. 昇進したくない女性まで、昇進するようプレッシャーを受ける。

順番に説明します。

問題① 周囲から反感を受ける

クオータ制の問題としてよく挙げられるのは「男性への逆差別」だという批判です。現状では、多くの社員がthe board of exectivesを目指して競争し、たくさんの時間やリソースを割いて会社に貢献しています。その中で、クオータ制という「特別枠」ができることは周囲の反感を生む可能性があります。これがよくない理由は、例えば次の2つです。

  1. 女性にとってストレスである
  2. 女性への偏見を強めること

the board of exectivesに昇進したとしても、同僚や部下から反感をもたれた状態で仕事をするのは、単純にその女性にとってストレスです。具体例として、人間関係がうまく行かない場面、部下が指示を聞かない場面などをイラストすると、強い分析になりそうです。

また、female quotaを導入することで、女性への偏見をさらに強めることもあります。

この政策をとることで、「女性はfemale quotaがなければ昇進できない(自分の力では昇進できない)」という印象を、周囲の人に与えることになります。
また、先に説明したような反感から、ストレスやトラブルの多い状況で働くことになります。そのような状況では女性もパフォーマンスを発揮しにくくなり、「やっぱり男性の方がうまく仕事ができるんだ」という偏見を強めてしまうこともあります。

これにより、フェミニズムのゴールに対して逆効果になってしまいます。

問題② 昇進するようプレッシャーを受けてしまう

クオータ制を設けることで、会社は一定数の女性をthe board of exectivesに選出する必要があります。これにより、昇進したいと思っていない女性まで、昇進するよう強制されることが起こる可能性があります。

これが起こることを説明するためには、会社と社員の力関係に着目するといいと思います。一般的に、実際には雇用主が雇用者より大きな力を持っています(采配・給与・昇進の決定など…)。昇進を命令されたとして、それを拒むことは難しい場合も多いです。

また、そのように強制されることが、どのように女性にとって悪いことかも説明できるといいです。

the board of exectivesに昇進することは、より大きな責任が伴い、ときには批判を受けます。そのため、精神的なプレッシャーに苦しんでしまうかもしれません。
また、昇進よりも別のものを大事にしたい人もいます。例えば、趣味や家族と過ごす時間など。昇進した結果、多くの時間を仕事に使う必要(残業や休日出勤など)ができ、自分の幸福を追求することができなくなります。

フェミニズムは、女性のための運動です。女性が苦しむ状況が生まれることは、単純にフェミニズムの目的に反していると言えます。

否定側の話はこんな感じです。

まとめ

”THW set female quota on the board of exectives in corporation.” の論題について解説しました。クオータ制の論題はたくさんあり、1つ理解しておくと他にも応用がきくと思います。

この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。