【論題解説 / Politics】THW limit the number of times that politicians can win the elections.

ディベート知識

「ディベートの個人練習のために論題の解説が見たい。」
「Politics系の基本motionを勉強したい。」

このような悩みを持つ方に、この記事では「THW limit the number of times that politicians can win the elections.(政治家の選挙当選の回数を制限するべき。)」の論題解説をします。

注意点

  • この解説は1人のディベーターが考えた内容であり、必ずしもベストなマターではありません。皆さんがマターを考える際の参考にお使いください。
  • 本記事に書かれているのは、競技ディベートのための知識です。現実の事実とは異なる場合があります。

このMotionの概要

Motion解説
THW limit the number of times that politicians can win the elections.

このmotionは、政治における「多選」の是非を問うものになります。多選とは、選挙において同じ人が何度も当選することです。

現実の選挙でも、多選はよく問題視されています。なぜなら、多選政治家はしばしばアドバンテージやパワーを持ちすぎてしまうからです。そして、そのような強すぎる候補者の存在は、「国民の意見を反映する」という政治の目的をダメにする可能性があります。

ディベートでもよくある対立

ちなみに、「強すぎる候補者への介入」は、政治系のmotionでよく議論されるテーマのひとつです。他に、こんなmotionもあります。

  • THW introduce mandatory retirement age for politicians.(政治家に定年制を導入する)
  • THBT democratic states dominated by hegemonic political parties should forcibly break up those parties. (覇権政党に支配された民主国家は、その政党を強制的に解体するべき)

ポイントを押さえておくと、応用ができるかもしれません。

政治の3つのゴール

また、政治系motionで覚えておくといい知識に、政治が目指すべき3つのゴールがあります。

Politicsの3つのゴール
Participation:政治に参加する機会がみんなに平等にあるべき、というゴールです。国民に選挙権があったとしても、投票率が低いままでは問題といえます。

Representation:国民の意見を集めできるかぎり政策に反映するべき、というゴールです。民意を正確に反映できていなかったり、特定のグループの声を無視していたりすると問題といえます。

Accountability:政治の活動を国民が把握しており、誤りがあれば正されるべきというゴールです。(国民と政府の間でチェック & バランスが働いているというイメージです。)公約が実行されていなかったり、汚職や不正があったりすると問題といえます。

プレパの時に、自分たちのサイドでこれらのゴールを達成できる理由は?という視点で考えると、マターを思いつきやすくなると思います。今回も、この3つのゴールをもとにアーギュメントを組み立てています。

肯定側のアーギュメント

肯定側のアーギュメント

それでは、ここからGov.のケースをご紹介します。今回は、Gov.のモデルとして、当選を1〜2回に制限することを想定します。

サインポストはこんな感じになると思います。

① デモクラシーのgoalは何か?
② なぜ多選議員がいたらこのgoalを達成できないのか?
③ なぜAP (After Plan) でgoalを達成できるのか?

① デモクラシーのgoalは何か?

まず、民主政治がどうあるべきかを説明します。基本的に、前述した3つのゴールをおくといいと思います。

(a) Participation:国民に選挙に参加してもらうべき。
(b) Representation:国民の意思を政策に反映させるべき。
(c) Accountability:透明性を保ち、不正なく政治を運営するべき。

※実際は、自分たちの話したいゴールに比重を置いて話すといいと思います。

② なぜ多選議員がいたらゴールを達成できないのか?

この内容を一言でいうと、多選議員はパワーを持ちすぎてしまい、政策のパフォーマンスに関係なく自動的に当選してしまうから、になると思います。

その結果、選挙という競争で評価されるべき「どの政治家 (政策)がより国民の意思を実現できるか」という基準とは関係なく、選挙の結果が決まってしまうことになります。

なぜ、多選政治家がパワーを持ちやすいのか?については、具体的には次の3つのような分析ができると思います。

① メディアへの露出

多選政治家は政治活動を通して、テレビや新聞などのmainstream mediaや、市政だよりなどのlocal mdeiaに出ることができます。他の候補者が宣伝カーなどを自腹で用意する中、これは大きなアドバンテージになります。さらに、次のような分析も足せるかもしれません。

  • Swing voterのような、あまり強い支持政党を持たない市民は、よく顔を見るという理由だけで投票することもある。(単純接触効果のような心理効果もよく知られています。)
  • 高齢者などのグループは、上記のような mainstream / local mediaしか使わない人も多いため、多選政治家が票を独占しがち。
  • ② 利益団体とのコネクション

    また、政治家は選挙に当選することで、自動的に次のようなアクターに利益を与える存在になります。

  • 現在のlocal govermentの職員や関係者(彼らに対して人事権を持つことがあるため。)
  • 経済政策などを実行する際に、利益を得ることになる業界団体や、事業をアウトソーシングする先の企業など。
  • そのため、上記のような特定のvoting groupが次の選挙で味方になる可能性が高く、確実に彼らの票を得られしまいます。また、これらのコネクションは「汚職をしよう」という悪意がなくても自然に発生してしまうものでもあります。

    ③ political apathy(無気力)

    多選政治家は長い間勝ち続けており、また他の候補者に大差で勝つことが多いといえます。すると、次のような理由から政治への無関心や選挙への不参加を引き起こすことがあります。

    ① 市民は他の候補者を応援したくても「次もどうせ多選政治家が勝つだろう」と思い、自分の票を無意味に感じて選挙に行かなくなる。
    ② それによって多選政治家がさらに大差で勝つようになり、political apathyが加速
    → ①にもどるという悪循環になる。

    その結果..

    このような理由から多選政治家がパワーを持った結果、インパクトとして(最初に置いた)政治のゴールを達成できなくなります。

    (a) Participationの低下:国民の政治への関心が下がり、参加しなくなる。

    (b) Representationの低下:政治家は政策の良し悪しとは関係なく勝てるので、国民の意見を反映する努力をしなくなる(できなくなる)。

    (c) Accountabilityの低下:コネクションや国民の政治への無関心から、不正や汚職が横行する。

    ③ APでどうよくなるのか?

    では、AP(After Plan)ではどんな人が立候補するのでしょうか。それは、知名度や最初のサポーターの量が比較的同じ候補者たちということができます。簡単にですが、APの変化を書くとこんな感じかと思います。

  • 誰が勝つのかわからないので、国民は自分の票に価値を感じて投票に行き、participationが上がる。
  • 純粋に政策の内容が論点となり、より市民の意見を反映した政策が選ばれ、representationが上がる。
  • コネクションなどが蓄積されにくく、またparticipationが高いため国民の監視もあり、accountabilityが上がる。
  • 他にこんな話も..

    他にできるアーギュメントとしては、「Gov.の世界の方がマイノリティの意見が反映されやすい」とも言えるかもしれません。理由はたとえばこんな感じに..。

  • 比較的若い政治家が選ばれるため、リベラルな価値観が政治に持ち込まれやすい。
  • 候補者はライバルとの票数の差が小さくなるほど、絶対数の小さいvoting groupを取り込めるかが勝負の分かれ目になり、彼らをよりrepresentするようになる。
  • 以上がGov.の話のご紹介です。参考になれば幸いです。

    否定側のアーギュメント

    否定側のアーギュメント

    続いて、Opp.のアーギュメント例をご紹介していきます。Opp.が話す内容はこんな感じになると思います。

    ①デモクラシーのgoalは何か?
    ②なぜ多選政治家の存在はこのgoalの達成に必要なのか?
    ③なぜAPでgoalを達成できないのか?

    Opp.のスタンス・反論

    その前に、前提となるOpp.のスタンスを説明しておきます。まず前述のGov.の話に対して、Oppとしてはこんな点を強調しておくといいと思います。

    多選政治家が選ばれやすいのは、単純に彼らがよりいい政治をしているから。彼らは選挙の目的に沿った正当な基準で評価され、選ばれている。
    そうでない場合、多選政治家であろうが負ける時には負ける。

    これらの理由としては、名前が知れているからこそ同様に失敗についても等しく世間の目に晒されるから / 強い候補者だからこそ、ライバルや野党は不正を見つけようと目を光らせているから.. などと言えると思います。

    その上で、当選回数を制限して優れた政治家を候補者から除外することは、政治のクオリティーを下げ、市民にとって大きなデメリットであることを説明していくといいと思います。
    ここから、アーギュメントの内容に移ります。

    ①デモクラシーのgoalは何か?

    これについては、Gov.のgoalに同意していいと思います。ただし、Opp.としては今回、Representationに関して重点的に話すことになると思います。これを強調しておきましょう。

    ② なぜ多選政治家がこのgoalに必要なのか?

    ここで、繰り返し当選するような政治家は実際に優れた政治家であり、彼らを選ぶというoptionを持つことは国民にとって大きなメリットであることを説明していきます。

    多選政治家が優れたrepresenterである理由は、次のように説明できると思います。

    ①政治家としての優れたスキルを持っている

    政治家というのは、広範なprofessional skillが求められる高度な職業という側面があります。なぜなら、政治家は市民の声を議会に届ける翻訳者となることが仕事だからです。そのため、たとえば次のようなスキルが要りそうです。

  • 議会で他の政治家とディベートし、他者を説得する力
  • 意見が対立したときに、妥協案を考えて、提案する力
  • 論理的思考力や、意見やアイデアを言語化する力
  • 様々なStakeholdersをリードする力、政策を実行する力
  • そして、これらの高度な能力をすべて備える人材はとても貴重です。

    ②その地域でのニーズをよく知っている

    また、スキルに加えて同じ選挙区で長年活動しているという経験も、市民の真のニーズや課題を理解する上で大切です。

  • 毎選挙での世論調査や分析
  • 街頭でのコミュニケーション
  • タウンミーティングや、施設への訪問
  • 多選政治家はこのような活動の蓄積により、たとえば地域特有の問題(地元産業の衰退、高齢化や過疎化、自然災害など..)にも適切な対応ができるようになります。

    ③長期的な政策ができる

    上記のような多選政治家の分析に加え、Opp.の世界でのみ「政治家が長期的な目線で政治ができる」と言うこともできると思います。なぜなら、複数回当選できるという前提があるからこそ、候補者は次のように動くことができるからです

  • 任期より長い期間を要する公約を掲げることができる。
  • 次回以降の選挙でも勝ちたいので、長期的に効果のある政策を提案する。
  • ③なぜAPでゴールを達成できないのか?

    一方でAPの話ですが、Gov.も想定しているように、ここで選ばれるのは基本的に若く経験も浅い政治家になると考えられます。その結果、次のようなことを言うことができると思います。(②の分析の裏返しですが..。)

  • 十分な経験・スキルのある政治家を選ぶことができなくなる。
  • 長期的な政策を立てることができなくなる。/ short-termに注目を集めるが,長期的には効率の悪い(害のある)政策が実行される。
  • 以上が、主なOpp.の話になると思います。基本的に、政治の3つのゴールのうち、Representateionについての話をメインにしやすいと思います。ParticipationやAccountabilityについては、反論でmitigationしていきましょう..。

    他にこんな話も..

    また、Opp.からはプリンシプル的な話もできるかもしれません。具体的には、「多選政治家の立候補を制限することは、デモクラシーにおいて守られるべき次のような権利を侵害している」という感じに..

    • 多選政治家の立候補する権利(被選挙権)
    • その政治家に投票したい人の選挙権

    とはいえ、Gov.から次のように反論されうるため、プリンシプルだけで勝ち切るのは(個人的には)むずかしい印象です。

  • 被選挙権にはもともと制限がある(年齢など..)があるし、そのような制限は他者へのharmがあれば認められる。
  • その政治家がいなくなったとしても、その政策にニーズがあるなら他の候補者が代弁するので問題ない。
  • そのため、先に説明したプラクティカルな話で引き分けになりそうな時に、この話を出すのがいいかもしれません。

    まとめ

    この記事では「THW limit the number of times that politicians can win the elections.」のマター例をご紹介しました。

    この記事の内容は1人のディベーターの限られた知識の中で書かれているため、決してベストなマターではありません。皆さんがマターを考える上での参考までにしてください..。この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。